- 2005年9月28日 23:03
- 日記
それで本当は『ハッピーバースデー』という、その今月文庫化された作品の感想を書こうと思っていたのだけれど、どうもこれが書きにくい。いろいろ考えている間に素子さんの作品との出会いまで思い出したりしたので、いっそ素子さんの話をしてみよう。
高校1年の時、4月生まれで、たいがいは誕生日なんて皆が親しくなった頃には終わってて祝ってもらえない私に、新しいクラスメートの一人がプレゼントをくれた。誕生日よりは後だったけれど、誕生日だったって知ったすぐ後に。それが素子さんの『あたしの中の…』『星へ行く船』、2冊のコバルト文庫だった。そしてこれは、カルチャーショックだった。第一種接近遭遇と言ってもいい。中学の時の私は、コバルト文庫って手に取ったことがなかったのだ。親の影響で、「コバルト=青少年向け風俗本」だと思っていたのだから仕方ない。まあ、当時のコバルト文庫にそういった一面があったのも否めない。でも、小説の分野では、すでにかなりユニークなラインナップが出ていたのだ。久美沙織、氷室冴子、藤本雅美、赤川次郎、辻真先、火浦功、大原まり子、などなど。その中で最初に出会ったのが、新井素子という自分より6歳上なだけの高校生デビューした作家。しかも星新一先生の大推薦付き。もっともそんなことは後日知ったのであって、最初に受けたショックは、これだけ。
「こんな文章で、こんな面白い作品ありか!」
(以下長文)
最近のブログやHP作成で素人が書き散らした散らした文章をいい加減見慣れた目には、まるっきり新鮮味がなくなっていると思うけど、新井素子の文章は、1980年代、画期的だった。十代やそこらの頃に、文章書きを目指す若者は少なくないし、私を含め、周囲にも何人もいたけれど、その中に「新井素子の作品を読んでショックを受けて書くのをやめた人」というのが少なからずいるはずだ。実際、一人の友人は以後まったく作品を書こうとしなくなった。私は文章にショックを受けるよりも、発想にショックを受けていた。なんというか、彼女の発想は、とっても柔軟なものだった。それまで読んだことのあるどのSFとも違ってた。身近で、ありそうなSF。文章でしか成立しない世界を描いているのに、竹宮恵子あたりが漫画に描いてそうなSF。筒井康隆も星新一も平井和正も読んでいて面白いと思って育ってきていて、なおかつ彼らの誰の影響でもない(なく見える)新井素子ワールドがそこにある。そんな感じ。
彼女は勿論、時代の寵児となり、ヒットを飛ばし、作品がイメージアルバム化されたり、ラジオドラマ化されたり、マンガ化されたり、TVドラマ化されたりした。浪人もせずに大学に入り、留年もせずに卒業し、そのまま専業作家生活に突入し、大学時代からの彼氏と結婚し…本人がどう思っていようと、傍から見れば、非常に恵まれた人生を歩んでいたわけだ。怒濤のように作品が出ていた学生時代から20代後半まで、ファンはそれらの刊行物を次々と読み、素子ワールドに酔いしれた。その後、数年に1冊しか作品が発表されなくても、ファンは飛びついて買うし、読むし、賞までもらえてしまったりする。熱狂的なファンと、熱狂的とはすでに言えないけど「新井素子」という名前は無視して通れない世代のファンが確実にいる。そんな影響力のある作家なのだ、いまでも。だから私も、買ってしまうのだけれども。
そして『ハッピーバースデー』。文庫化されて、初めて手に取った。珍しくハードカバーで出た時に読んでいない。理由は簡単で、これの前、『チグリスとユーフラテス』がハードカバーで出た時に、何の躊躇もなく、買って、読み始め…途中で投げてしまったから。初めてだったんだよね、新井素子作品を途中で読むの止めたのは。しんどくって読み続けられなかったんだから仕方ない。今回は、文庫だし、電車の中で読むにはいいかと思って買ったんだけど、正直なところ、最初の章の2/3程度まで読み進んだ時には、これも投げようかと思った。しんどかったんだよね、主人公のキャラクターが。『おしまいの日』の主人公と系統的には同じなんだろうけど、半端に社会生活が送れている分、現実味もなくて。でも1章目の終わりで起こった、かなり予想通りの出来事の後、まあ最初は予想通りに進行していたストーリーが、少しずつ奇妙な方向へとずれていく。その「ずれ」が、なんとも説得力があった。そしてストーリーの終わりにある情景を提示される頃には、主人公の生き方(=キャラクター)が活きてきており、そこへ導いた作家の力量に舌を巻くしかなくなっているのだ。
そして、つらつらと感想を書こうと思って、すごく困ってしまった。あらすじと感想を書いてみても、まったく面白い作品とは思えないのだ。むしろ「読んでて面白いのか?」と言われてしまうだろう。でも私自身は面白く読んだのだから、まるっきり面白くないわけじゃないのだ、どうやって伝えればいいんだろう?人様に「面白いから是非読んでみて!」とは言いにくいのも事実だし。もう一度、投げ出した『チグリスとユーフラテス』を読んでみた方がいいかもしれない、と思わせる程度には面白かったんだけどな。ほんとに。
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