- 2009年6月21日 21:52
- 歌舞伎
今月の歌舞伎座は、夜の部で松本金太郎、つまり染五郎の息子で幸四郎の孫の初舞台がある。親子三代揃い踏みを見たいというファンが押し寄せて、夜の部直前の歌舞伎座前では一幕見席の列が道路まで延びていく勢いだ。しかし私のお目当ては、昼の部の親子三代揃い踏み、片岡仁左衛門、孝太郎、千之助だ。仁左衛門一世一代の『女殺油地獄(おんなごろしあぶらじごく)』の与兵衛、お吉を孝太郎、お吉の子を千之助。楽しみにしてきたが、生憎の雨模様。しかし演目には似合った天気かもしれない。
昼の部は11時開演、15時45分までという長丁場で、大阪出張から帰って来た疲れが取りきれてない身にはつらかろうと思い、『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』『双蝶々曲輪日記 角力場(ふたつちょうちょうくるわにっき すもうば)』は思い切ってパスした。福助と梅玉の舞踊もの、『蝶の道行(ちょうのみちゆき)』から見る。舞台冒頭、いきなり暗闇を2羽の蝶々がきらきらと飛び交う。客席に失笑が...いらないんじゃないか?そもそもこの舞踊は先にある粗筋を知らないとよくわからないのだけど、まあ、飽きずに最後まで見られたのは踊り手2人の力量ゆえだろう。
そしてお目当ての『女殺油地獄』。本人が「もうやらない」と言っていたのを、歌舞伎座さよなら公演へのリクエストで「一世一代」と銘打っての最後の与兵衛なのだ。最も私は初めて見るのだけども、この演目。これまでどうも縁がなかったのだけど、一度は見たい演目だったので、それを仁左衛門で見られる最後の機会に恵まれた。すべりこみセーフって感じである。期待して当然だろう。もちろん期待は裏切られることなく、むしろそれ以上であった。御本人が固辞していた理由は、与兵衛が「若い」役だから自分にはもう似合わない、であったそうだが、なんのなんの。20代の我が侭な放蕩息子、手のつけようのない甘ったれの不良そのもの。また孝太郎がきっちり対等に演りあっていて、素晴らしい。秀太郎のお沢、歌六の徳兵衛もしっかりと脇を支え、良い芝居を作り上げていた。本当に、見られて良かった。
ただ惜しむらくは凄惨な油まみれの殺し場で客席から笑いが起こっていたこと。笑うような場面ではないし、決してコミカルに見える芝居をしているわけではない。それでも笑いが起こるのは、テレビのお手軽なお笑い番組等のせいで「滑って転ぶ姿は滑稽なものだから笑うもの」という刷り込みがなされている世代がいるからじゃないだろうか。実際のところ、徐々に笑い声は減っていき、最後はどんなに滑っていても笑い声はちらとも起こらなくなっていった。その場面の本質的な意味をきちんと受け取れていれば、そもそも笑いは起こらないだろう。パターン認識の恐ろしさ、とでも呼ぶべきだろうか。そんな表面的な見方しかできない観客ばかりになったら、歌舞伎だけじゃなく、舞台芸能そのものが浅薄になっていってしまうんじゃないだろうか。ちょっと心配になってしまうよ。
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Comments:1
- ひろむ 2009年6月25日 10:49
追記:
片岡仁左衛門ファンのコミュニティでも笑いのことについては議論が交わされていた。
その中に、
恐ろしすぎる場面であるからこそ、滑稽に救いを求めて思わずくすっと笑いが漏れてもいいんじゃないか、
という意見があり、そういう見方もあるのかと思った。
でもそんなかわいい笑いじゃなく、どっと笑ってる感じなんだよね…。
やはり私は違和感を感じてしまう派なんだろう。
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