- 2009年6月27日 21:34
- 歌舞伎
2005年7月に初演だった『NINAGAWA 十二夜』だが、評判が良くて何度かの国内再演をしていた。そしてこの春には、なんとロンドンはバービカン・シアターで公演を行い、新橋演舞場の六月大歌舞伎はその凱旋公演である。初演の時と大きく異なるのは三幕構成から二幕構成に変えたこと。これで冗長さがなくなり、ぐっとメリハリが効いて見易くなったんじゃないかと思われる。他にも踊りの部分やら何やらいろいろと手を加えたというのはインタビュー記事などで読んでいたが、実際に見ないとどう面白さがアップしているのかはわからない。あまり気になったので、急遽チケットを確保して見に行ってきた。
全体のテンポはすごく良かった。特に後半はたたみかけるように進む。舞台美術は初演から変わらず鏡を使ったスタイルで、移り込む登場人物や灯り、客席が美しい。回り舞台をめいっぱい利用した場面転換では、主要人物にピンスポットがあたり周囲をライトダウンすることで、それまで動いていた人物達が人形になって箱庭に入っているかのような印象を与え、それがまた美しい。1階席から見た場合にどうなのかはわからないが、3階席から見る分にはものすごく良い効果だった。ハープシコードの音色はこの美術にとてもよく合う。二幕構成にした弊害は、琵琶姫の兄である主膳之助の話が、ちょっとわかりにくくなったことか。ないと困るけどありすぎても冗長になるので、バランスとしてはこんなものかと思わないでもないけれど。
衣装の色も、たぶん初演時とは細かく違っているようだ。例えば時蔵の織笛姫が赤姫なのは変わらないが、通常の赤姫の衣装の上にワインレッド(臙脂色?)の重ねをまとっており、これが頑固でもあり兄の死を悼む妹でもある姫に重みを加えている。今回は翫雀がやっている安藤英竹は薄紫色の衣装に真っ赤な木靴で、品の良さとおかしみを同時に醸し出している。
役の工夫は、ものすごかった。翫雀の安藤英竹は「ぼく」という言葉に強いアクセントを置く独特な喋り方で、さらには英語も交えての台詞運びで笑いを誘う。左團次の洞院鐘道は性悪なところがなく、ただ面白おかしく暮らしたいような感じに見え、亀治郎の麻阿とのアツアツっぷりがかわいらしかった。そしてやはり特筆すべきは麻阿だろう。初演時にもなんてすごいはじけっぷりと思い、亀治郎が一皮むけたと感じたものだが、今回は更にパワーアップしている。コミカルな場面、脇の主な筋でもある棒太夫を罠にかける部分については、とにかくこの人がひっぱっている。ただ筋をひっぱるだけでなく、共演者を乗せ客席を乗せ、やりすぎるギリギリ手前で踏み留まっているバランスの良さ。さすがである。おかげで菊五郎の棒太夫/捨助など、すごくいい演技をしていて面白かったり深かったりしているのに、最も強く印象に残るのは麻阿だ。とは言え、再演を重ねてきたおかげかアンサンブルとしても非常にバランスがいいので、主筋が霞むことはないのだけれども。
今月の筋書きに小田島雄志が寄せているように、歌舞伎とシェイクスピアには共通する点が多いとは、昔から言われていることだ。だけど歌舞伎にシェイクスピアを取り入れて成功したのは、この演目が初めてだろう。蜷川幸雄という希代の名演出家の介在なしには、成功もなかったかもしれない。歌舞伎と現代劇とシェイクスピアの、幸せなマリアージュだったと言える。この秋には国立劇場で『テンペスト』を文楽としてやるそうだが、柳の下に二匹目のドジョウはいない。確かに『テンペスト』なら「人形劇」向きではあるが、歌舞伎での取り組みとはまったく別物だろう。間違っても下手な『児雷也』みたいにならないことを祈る。
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- NINAGAWA十二夜<凱旋公演版> from Hirom's Amblin' Report